ノーベル賞に最も近い男

中村修二著「考える力、やり抜く力 私の方法」(三笠書房)を読了。中村修二さんは、現在カルフォルニア大学サンタバーバラ校教授で、日亜化学という会社の研究者だったころ、20世紀中には無理と言われた青色発光ダイオード(LED)の開発に1993年にはじめて成功した人である。その功績により、仁科記念賞、大河内記念賞、本田賞、朝日賞など数々の権威ある賞を総なめし、現在、ノーベル賞に最も近い男、と言われている。

本を読んでわかったが、この人はかなり変わった人だ。一冊まるごと、最初から最後まで自画自賛、である。出だしからすごい。カルフォルニアサンタバーバラの超高級住宅に、時価一億円の家に現在住んでいる、という自慢話から始まる。そして自分の開発した青色LEDは、自らものすごい発明と称し、装置を加工する自分の腕は神技とまで言っている。自分で自分のことをノーベル賞に最も近い男、と呼んでしまうくらいだ。

この中村修二さんはとにかく屈折していて、製品を作っても日亜化学という小さな会社のせいで大企業と同じ性能のものよりも売れないことに怒り、自分が地方大学出身のため一流大学出の研究者は過去の文献や物理の知識などの常識にとらわれてしまって想像力がない、駄目な奴らだ、と軽蔑する。(でも湯川秀樹の言葉を引用していたりする。湯川秀樹は京大出身)

しかし読み進めているうちにこの鼻につく自慢げな文章にもだんだん慣れてきて、わりといいことも書いてある、と思えてきた。 中村修二さんは研究者、というよりも、技術者といったほうがふさわしい人である。製造装置を業者から買ったりせず、試行錯誤しながら自分で何年もかけて作りあげている。 会社で研究費の無駄遣いだとか文句を言われても、学会で偉い先生にそんなやり方では駄目だと自信たっぷりに決め付けられても、失敗にめげず自分を信じてこつこつと研究を進め、そしてついには青色LEDの開発に世界ではじめて成功させたのだ。

わざわざ買って読むような本ではないけれど、この本を読めば、ノーベル賞に最も近い男の生き様が少し見えた気になれるし、おちこぼれにも勇気が与えられる。図書館にでも置いてあればぱらぱらっと目を通すことだけでもおすすめします。

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